古代の役所跡からこのように多数の人名が確認されるのは、全国的に見ても稀なことで、当時の費用負担のあり方もしくは労役の実態などを示すものとして非常に貴重な資料とされています。なお、これらの瓦は、本遺跡の北方約13kmの水道山瓦窯で生産されていたことが分かっており、田川を使って本遺跡まで運ばれたと考えられます。
氏別文字瓦出土数
本遺跡でこれまでに出土した文字瓦約2,300点のうち、氏名等の判読が可能なものは836点あります。そのうち、もっとも多く見つかっている氏は「酒マ[さかべ]」です。当時の河内郡にあった10郷のひとつである酒部郷と関連のある氏ではないかと考えられます。第3位の「白マ[しらべ]」、第5位の「丈マ[はせつかべ]」、第6位の「大麻マ[おおおみべ]」も同様に、真壁(白髪部)郷・丈部郷・大續(大麻)郷との関連がうかがえます。第2位の「雀マ[ささきべ]」、第7位の「神主マ[こうぬしべ]」は、宇都宮市雀宮や上三川町上神主・下神主といった現在も残る地名との関連がうかがえます。名前をみてみると、「万呂[まろ]」と付く名前が多いことが分かります。大宝律令の編纂に関わったとされる下毛野古麻呂[しもつけのこまろ]がいるように、当時流行の名前だったのかもしれません。これらの氏名以外にも、押印された文字瓦や役職を刻んだ文字瓦なども見つかっています。
順位 | 氏 | 氏の読み | 名 | 出土数 |
1位 | 酒マ・酒 | さかべ | 得足・万呂・連工・毛人・男諸・金万呂など | 265 |
2位 | 雀マ・雀 | ささきべ | 男・乙・小酒・牧男・古万呂など | 136 |
3位 | 白マ・白 | しらべ | 毛人・立万呂・玉支万呂・若万呂など | 80 |
4位 | 木マ・木 | きべ | 毛人・小兆(龍)・古万呂など | 60 |
5位 | 丈マ・丈 | はせつかべ | 忍万呂・臣など | 55 |
6位 | 大麻マ・大麻 | おおおみべ | 古万呂・猪万呂・若古など | 43 |
7位 | 神主マ・神主 | こうぬしべ | 牛麻呂・弟など | 34 |
8位 | 矢田マ・矢田 | やたべ | 安万呂・尓万呂・刀良など | 21 |
9位 | 川和・川 | かわな | 子万呂・古万呂など | 18 |
10位 | 氏マ・氏 | うじべ | 男・古牛など | 14 |
※瓦に刻まれた氏名の判読は、今後の新たな研究成果により変更されることもあります。